スキルを活用したエージェント構築:専門業務への対応

スキルを通じて専門知識をエージェントが活用できるファイルとしてまとめることで、標準的なエージェントが実務に対応可能なスペシャリストへと進化します。

過去 1 年で状況は大きく変化しました。MCP は業界リーダーや開発者コミュニティに急速に普及し、エージェント接続の標準となりました。また、汎用コーディングエージェントとして Claude Code をリリース。本番環境ですぐに利用可能なエージェントを提供する、Claude Agent SDK も公開しました。

しかし、こうしたエージェントを構築しデプロイする中で、常に同じ課題に直面してきました。エージェントは高い知能と能力を備えているものの、実際の業務を効果的に処理するための専門知識を常に持ち合わせているわけではないという点です。そこで私たちは、エージェントスキルを開発しました。スキルとは、ワークフロー、ベストプラクティス、スクリプトといった特定領域の専門知識を、エージェントがアクセスして適用できる形式で整理・パッケージ化したファイル群です。これにより、有能なゼネラリストが知識豊富なスペシャリストへと進化します。

本稿では、特化型エージェントの構築を取りやめ、代わりにスキルの開発を始めた理由と、この移行がエージェントの機能拡張に関する考え方をどのように変えつつあるのかについて解説します。

新たなアプローチ:必要なのはコードのみ

かつては、領域が異なればエージェントの構造もまったく異なるものになると考えられていました。コーディング用、調査用、財務用、マーケティング用と、それぞれに専用のツールや足場(スキャフォールディング)が必要だと思われていたのです。業界全体も当初はこうした領域特化型エージェントのモデルを採用していました。しかし、モデルの知能が向上し、エージェントの能力が進化するにつれ、私たちはまったく異なるアプローチへと行き着きました。

コードはもはや単なるユースケースではなく、エージェントがあらゆるデジタルタスクを実行するためのインターフェースとなっています。Claude Code はコーディングエージェントですが、同時に「コードを介して機能する汎用エージェント」でもあるのです。

Claude Code を使用して財務レポートを作成するケースを例に挙げます。Claude Code は調査のために API を呼び出し、ファイルシステムにデータを保存し、Python で分析を実行し、得られた知見を統合します。これらすべてがコードを通じて行われます。基盤となるのは、bash とファイルシステムという極めてシンプルな構成のみです。

しかし、汎用的な能力と専門知識は同義ではありません。Claude Code を実務に投入し始めたとき、そこには明確なギャップが存在していました。

欠けている要素:特定ドメインの専門知識

税務申告を依頼するなら、第一原理から計算を解き明かす数学の天才と、何千件もの申告書を作成してきた経験豊富な税務のプロフェッショナルのどちらを選ぶでしょうか。大半の人は後者を選ぶはずです。それは頭が良いからではなく、適切な専門知識を備えているからです。

今日のエージェントは、まさにその数学の天才に似ています。未知の状況において推論を導き出す能力には優れていますが、熟練のプロフェッショナルが蓄積してきた専門知識が欠けていることが多いのです。適切なガイダンスを与えれば素晴らしい成果を上げますが、重要なコンテキストを欠いていたり、組織の専門知識を容易に吸収できなかったり、反復的なタスクから自動的に学習することができなかったりという課題を抱えています。

スキルは、特定領域の専門知識をエージェントが段階的にアクセス・適用できる形式でパッケージ化することで、このギャップを埋める役割を果たします。

エージェントスキルとは?

スキルはエージェント向けに特定領域の専門知識と手続き的知識をパッケージ化したものです。

anthropic_brand/
├── SKILL.md
├── docs.md
├── slide-decks.md
└── apply_template.py

スキルの構造がシンプルであることには理由があります。ファイルは、既存のツールと連携できる普遍的な基本要素(プリミティブ)です。Git でバージョン管理を行い、Google Drive に保存し、チームで共有することが可能です。このシンプルさゆえに、スキルの作成はエンジニアの専売特許ではありません。プロダクトマネージャーやアナリスト、特定領域の専門家たちが、すでに自身のワークフローをコード化するためにスキルを作成し始めています。

段階的開示

スキルには膨大な情報を含めることができます。コンテキストウィンドウを保護し、スキルのコンポーザビリティ(組み合わせやすさ)を高めるため、実行時にはメタデータ(YAML フロントマターの名前と説明)のみがモデルに開示される「段階的開示」の仕組みを採用しています。

---
name: Anthropic Brand Style Guidelines
description: Anthropic's official brand colors and typography…
---

Claude が特定のスキルを必要だと判断した場合にのみ、SKILL.md ファイルの全体を読み込みます。さらに詳細な情報が必要な場合は、references/ ディレクトリに補足ドキュメントを含めておき、要求があった場合にのみ読み込ませることも可能です。

この 3 層構造のアプローチにより、コンテキストウィンドウを圧迫することなく、エージェントに数百ものスキルを装備させることができます。メタデータの消費トークン数は約 50 トークン、SKILL.md 全体でも約 500 トークンであり、2,000 トークン以上を消費するリファレンスファイルは、明確に必要とされた場合にのみ読み込まれます。

スクリプトのツールとしての組み込み

従来のツールにはいくつかの問題がありました。指示が不十分なものがあり、モデルが常に修正や拡張を行えるとは限らず、コンテキストウィンドウを肥大化させがちです。一方、コードは自己記述的で変更が容易であり、常にコンテキスト内に保持しておく必要がありません。

実例を挙げましょう。Claude がスライドに Anthropic のスタイルを適用する際、毎回同じスクリプトを記述していることに気づきました。そこで、Claude 自身にそのスクリプトをツールとして保存するよう指示しました。

# anthropic/brand_styling/apply_template.py
import sys
from pptx import Presentation

if len(sys.argv) != 2:
    print("USAGE: apply_template.py <pptx>")
    sys.exit(1)

prs = Presentation(sys.argv[1])
for slide in prs.slides:
    ...

slide-decks.md に記載された対応するドキュメントでは、単にこのスクリプトを参照するだけです。

## Anthropic Slide Decks
- Intro/outro slides
  - background color: `#141413`
  - foreground color: oat
- Section slides:
  - background color: `#da7857`
  - foreground color: `#141413`

Use the `./apply_template.py` script to update a pptx file in-place.

スキルエコシステム

スキルエコシステムは急速な広がりを見せており、現在までに主に以下の 3 種類のスキルが構築されています。

基礎スキル

ドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーション資料の操作など、あらゆるユーザーが必要とするコア機能を提供します。ドキュメントの生成や操作に関するベストプラクティスがコード化されています。実際の動作については、公開リポジトリで基礎スキルをご確認ください。

パートナースキル

スキルによってエージェントが特殊機能とやり取りする方法が標準化される中、各企業は自社サービスをエージェントからアクセス可能にするためのスキルを開発しています。K-Dense、Browserbase、Notion など多くの企業をはじめとする多くのパートナーが、自社サービスを直接統合するスキルを作成。スキルフォーマットのシンプルさを維持しながら、特定の領域において Claude の機能を拡張しています。

エンタープライズスキル

各組織は、独自の内部プロセスや特定領域の専門知識をコード化した独自のスキルを構築しています。企業固有のワークフロー、コンプライアンス要件、および組織内の暗黙知を取り込むことで、エージェントをエンタープライズの現場で真に役立つ存在へと進化させます。

現在のトレンド

スキルの導入が進むにつれ、このパラダイムの将来的な方向性を示すいくつかのパターンが浮き彫りになってきました。これらのトレンドは、スキルの設計思想や、スキル開発者を支援するためのツール群のあり方に大きな影響を与えています。

複雑化

初期のスキルは単純なドキュメントの参照に留まっていました。しかし現在では、複数ツールを横断したデータ検索、複雑な計算、およびフォーマットされた出力の生成を連携させる、高度なマルチステップのワークフローが見られるようになりました。

  • シンプル:「ステータスレポート作成」(~100 行)- テンプレートとフォーマット
  • 中級:「財務モデルビルダー」(~800 行)- データ取得、Python を使用した Excel モデリング
  • 複雑:「RNA シーケンスパイプライン」(2,500 行以上)- HISAT2、StringTie、DESeq2 分析の連携

スキルと MCP

スキルと MCP サーバーの連携は極めて自然なアプローチです。たとえば競合分析スキルの場合、ウェブ検索、MCP 経由の内部データベース、Slack のメッセージ履歴、Notion ページを連携させ、それらを統合して包括的なレポートを作成することが可能です。

非開発者による導入

スキルの作成は、エンジニアの枠を超え、プロダクトマネージャーやアナリスト、各分野の専門家へと広がりを見せています。スキル作成(skill-creator)ツールを使用すれば、対話型のガイダンスに従うだけで、最初のスキルを 30 分以内に作成してテストできます。当社は誰もが専門知識を形にして共有できるよう、ツールやテンプレートの改善を通じて、スキル作成のハードルをさらに下げる取り組みを進めています。

全体のアーキテクチャ

これらを統合すると、最新のエージェントアーキテクチャは以下の要素の組み合わせとなります。

  1. エージェントループ:次の操作を決定する中核的な推論システム
  2. エージェントランタイム:実行環境(コード、ファイルシステム)
  3. MCPサーバー:外部ツールやデータソースへの接続
  4. スキルライブラリ:ドメインの専門知識と手続きの知識

各レイヤーには明確な目的があります。ループが推論し、ランタイムが実行し、MCP が接続し、スキルがが導きます。この役割の分離により、システムの全体像が把握しやすくなり、各要素が独立して進化できるようになります。

このアーキテクチャに単一のスキルを追加した場合の挙動を考えてみます。フロントエンドデザインスキルを導入すると、Claude のフロントエンド実装能力は即座に向上します。タイポグラフィ、色彩理論、アニメーションに関する専門的なガイダンスを提供し、ウェブインターフェースの構築時にのみ作動します。段階的開示の仕組みにより、関連性がある場合にのみ読み込まれるため、新機能の追加も極めてシンプルです。

新規の領域へのスキル展開

MCP サーバーとスキルを備えた汎用エージェントというこの新しいパターンは、すでに Claude を新たな領域へと展開するうえで大きな役割を果たしています。

金融サービス

スキルのリリース直後、当社は金融サービス向け Claude を強化し、金融のプロフェッショナルにとってより実用的な機能を備えたスキルを提供しました。

  • DCF モデルビルダー:適切な WACC 計算と感度分析を伴うディスカウントキャッシュフローモデルの構築
  • 類似企業比較法:適切なマルチプルとベンチマークを含む類似企業比較表を生成
  • 決算分析:四半期業績の処理と投資アップデートレポートの作成
  • 新規カバレッジ:財務モデルを組み込んだ包括的な調査レポートの構築
  • デューデリジェンス:標準化されたフレームワークで M&A 分析を構造化
  • ピッチ資料:業界標準に沿ったクライアントプレゼンテーションを作成

ヘルスケア&ライフサイエンス

また、ヘルスケア・ライフサイエンス向けソリューションにおいても、研究者、臨床医、ヘルスケア開発者にとって Claude をより有用なものにするスキルを強化しました。

  • バイオインフォマティクスバンドル:ゲノムパイプラインやシングルセル RNA シーケンスの管理に不可欠な scVI-tools および Nextflow デプロイメント用スキル
  • 臨床試験プロトコル生成:臨床研究のためのプロトコル開発を加速
  • 科学的課題の選定:究者が影響力の大きい研究課題を特定し、枠組みを構築するのを支援
  • FHIR 開発:医療データの相互運用性を高める正確なコード記述を支援し、エラーを減らしながら医療システム間の接続を迅速化
  • 事前承認レビュー:保険適用要件、臨床ガイドライン、患者記録を照合することで事務負担を削減し、患者が迅速に必要なケアを受けられるよう支援

エージェントスキルの標準化

このビジョンを実現するため、当社はエージェントスキルをオープンスタンダードとして公開しています。MCP と同様に、スキルはツールやプラットフォームを問わず移植可能であるべきだと考えています。Claude であっても他の AI プラットフォームであっても、同じスキルが機能しなければなりません。Anthropicはエコシステムのパートナーと連携して標準化を進めており、早期から広く採用されていることを歓迎しています。

ユーザーが初めて AI エージェントを使い始める際、エージェントはチームが重視する事柄をすでに把握しているべきです。なぜなら、スキルを通じて専門知識が集約され、展開可能になるためです。このエコシステムが拡大すれば、コミュニティの誰かが構築したスキルによって、利用する AI プラットフォームに関係なく、エージェントの有用性、信頼性、機能性が向上していくでしょう。

ご利用にあたって

エージェントの標準的なアーキテクチャが確立されつつある中、スキルは新機能の提供と共有を実現する新たな仕組みとなります。真の価値は、私たちが共に構築する集合的なナレッジベースから生まれます。専門知識を取り込み、チーム間で移転させ、すべてのエージェントを過去のものよりもさらに優秀な存在へと進化させていくのです。

リソース:

謝辞:

Barry Zhang 氏、Mahesh Murag 氏、Keith Lazuka 氏、Ryan Whitehead 氏

Claude で組織の運営を変革する

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