最前線での挑戦:Thomson Reuters による重要な専門業務向け AI の構築方法
Thomson Reuters の CTO である Joel Hron 氏は、弁護士や会計士から信頼される製品に AI を組み込むことに、何年も取り組んできました。 同氏が Claude Fable 5 を、ナレッジワークにおける AI の可能性を広げる重要な進化と考える理由をご紹介します。
コンテンツおよびテクノロジーを扱う世界的な企業である Thomson Reuters は、175 年以上にわたって、重要な意思決定を下す専門家や機関向けに、信頼できるコンテンツやテクノロジーを構築してきました。現在、その同じミッションが、法務、税務、会計、コンプライアンスなど、重要度の高い専門業務のワークフロー向けに同社が AI を構築する方法を形作っています。
Thomson Reuters の CTO である Joel Hron 氏は、「当社は、正確性と精度が求められる専門職に注力するテクノロジー企業です」と述べています。
同社の製品は、こうした専門職が日々頼りにしているリファレンスツールです。法務調査や実務指針向けの Westlaw と Practical Law のほか、Thomson Reuters の専門職向け法務 AI プラットフォームである CoCounsel Legal は、根拠を示せる回答と真の価値をもたらす成果を提供し、法務の専門家の業務の質を高めることを目的としています。Hron 氏は、4 年前に自身のスタートアップが Thomson Reuters に買収されたことを機に同社に入社し、製品、技術、戦略が交わる領域で業務に携わってきました。この間に、ソフトウェアを構築する意味が AI によって変わったと、同氏は語ります。適切なテクノロジーパートナーを選ぶことが、かつてないほど重要になっています。
これらの製品を支える LLM を選定する基準は、驚くほど具体的です。Hron 氏のチームは、新しいモデルを評価する際、そのモデルの成果物が、弁護士が業務で依拠する前に行う専門的なレビューの水準に耐えられるかどうかを基準にしています。
法務業務におけるモデルの評価
法務分野の AI ツールを構築できる企業は多くありますが、弁護士が自らの名前で責任を持てるツールを構築できる企業は、はるかに少ないのが実情です。 Thomson Reuters は、専門業務の AI に、汎用システムでは容易に再現できない 3 つの利点をもたらします。信頼できるコンテンツ、専門分野の深い専門知識、ワークフローとの統合です。
弁護士が Westlaw の回答を信頼できる理由は、モデル単体にあるのではない、と Hron 氏は述べています。 それは、数十年にわたって精査されてきた判例と、毎日そのコンテンツに注釈を付けて充実させている世界各地の 2,700 人を超える専門家の作業、そして Thomson Reuters が Claude などのモデルを基盤に構築している評価によるものです。「最終的な成果物に責任を負うのは、依然として人間の専門家です。」
Claude は有益なモデルパートナーですが、専門職レベルのシステムは、Anthropic の最先端モデルと、Thomson Reuters の信頼できるコンテンツ、専門分野の深い専門知識、ワークフローとの統合、評価インフラを組み合わせることで実現しています。
Thomson Reuters はこのアプローチを Fiduciary-Grade AI™ と呼んでいます。これは、信頼できるコンテンツに根ざし、深い専門知識によって形作られ、専門業務のワークフローに直接組み込まれた AI であり、重大な局面においても、出力の透明性と検証可能性を確保し、その正当性を示すことができます。
こうした説明責任があるからこそ、この分野では流暢さよりも検証が重要になります。Thomson Reuters は、「単なる検索や情報取得にとどまらず、引用の妥当性確認と検証」に最適化されたエージェントを中心に、法務調査を再構築しました。 求められるのは、引用の検証を支援し、出典を明確に示すシステムです。これにより、専門家は自信を持って内容を確認、検証し、自らの判断を適用できます。
変化は、お客様の報告に表れています。「数十時間かかっていた」調査が、今では「わずか数分」で完了するようになったと Hron 氏は述べています。これにより専門家は、評価、改善し、行動に移せる質の高い出発点を得られます。「ディープリサーチは、法務調査のあり方そのものを大きく変えました。」
エージェントファーストの製品を構築
Thomson Reuters にとって、エージェントの開発は、より賢いチャットボットを作ることではありません。 これは、既存の製品を届ける新しい方法を反映しています。Hron 氏とチームは、同社がこれまで単体のソフトウェアとして提供していたすべてのツールを、エージェントが使いこなせるよう教えることに着手しました。現在では、1 つのエージェントが数百もの企業ツールに同時にアクセスできるようになりました。
この変化により、Thomson Reuters によるモデルの評価方法が変わりました。「Claude に対する私たちの重要なテストは、計画を立て、これらのツールを効果的かつ正確に活用する能力がどれほど優れているかを、実際に評価することです」と同氏は述べています。
CoCounsel Legal は、その実態を示しています。 以前は、個別のスキルを次々に実行していました。Claude Agent SDK を基に再構築されたことで、現在は複数のツールやコンテンツソースにまたがってリアルタイムで計画、委任、オーケストレーションを行えるようになりました。そのため、専門家は各ステップを指示する代わりに、求める結果を定義できます。お客様のデータは引き続き保護され、サードパーティ製モデルの学習には使用されません。
Hron 氏は、この選択の背景を 2 社が協業を始めた経緯にまで遡って説明します。Thomson Reuters は Anthropic の初期のエンタープライズ顧客の 1 社であり、決め手となったのはベンチマークではありませんでした。「私たちの心に最も響いたのは、エンタープライズ AI の構築に対する Anthropic のアプローチでした」と同氏は語り、その理由として透明性、安全性、責任ある AI 開発を挙げています。最初の事例は、法務分野でのディープリサーチでした。Anthropic のエンジニアが、Thomson Reuters がすでに提供していた形でツールを活用していることに両チームが気づき、共同で構築されました。
ナレッジワークがモデルに求めるもの

こうしたプロジェクトを通じて、Hron 氏のチームは、Thomson Reuters がモデルを信頼するために満たすべき要件を4つに整理しました。
まず、CoCounsel Legal システムの一環として、モデルは自ら引用を確認する必要があります。 システムは、情報源を取得してそのまま先に進むのではなく、引用した内容を検証してから、調査結果を人間に提示し、最終的な確認と検証を受ける必要があります。
このシステムでは、モデルはツール呼び出しの長い連鎖全体にわたって安定した動作を維持する必要もあります。タスクが長くなるほど、より優れたコンテキスト管理と、長時間の実行における信頼性の高いツール使用が求められます。モデルは、多くのステップやシステムにまたがって文脈を見失わずに処理を続ける必要があります。そうすることで、エージェントが途中で停滞することなく、実際の作業を完了できます。
また、回答だけでなく、業務にも人を巻き込む必要があります。最も難しい業務について Hron 氏が求めているのは、「エージェントに一度で回答を出させることに頼るのではなく、業務の成果物を作り上げるプロセスに人間を巻き込む」モデルです。
そして最後に、Thomson Reuters のチームがこれまで手が回らなかった業務に充てる時間を生み出す必要があります。Thomson Reuters は、訴訟申立書の作成を含む高度な法務文書作成機能の開発を進めています。これらは、専門家であれば通常「完成までに数日から数週間を費やして磨き上げる」ような申立書や提出書類の作成を支援するものだと、同氏は述べています。以前のモデルにとって、このタスクは「常にあまりにも多くのコンテキストと精度を必要としていました。 Claude Fable 5 の登場により、これが実現可能になりました。
AI の ROI
Hron 氏は、AI の投資収益率について一般とは異なる見方をしており、これはモデルを導入している他のリーダーにとっても参考になるかもしれません。 「収益率の計算を最適化しようとしすぎると、全体像を見失ってしまいます」と同氏は述べています。 同氏は、タスクあたりのコストを調整する前に、チームに文化や考え方の変化を実感してほしいと考えています。考え方の変化が起これば、リターンは自ずとついてきます。
同氏は、DevOps Research and Assessment(DORA)指標や、アイデアから本番環境へのリリースまでの時間といった従来のエンジニアリング指標を引き続き追跡しています。また、Claude を基盤に構築された社内のエラー修正ツールによって、根本原因の分析に 3 時間かかっていた本番環境の問題が、わずか 4 分で修正できるようになった事例を挙げています。「数時間ではなく数分以内に正常な状態に復旧できることは、大きな違いです」
Hron 氏によると、より本質的な変化は業務そのものに起きています。
「コードを何行も書くこと自体は、もはや仕事ではありません」と Hron 氏は自社のエンジニアについて語ります。現在最も重要なスキルは、システム思考、判断力、そしてセンスです。同氏は、同じパターンがエンジニアリング以外の分野にも広がっていると考えています。AI によって人々は「より T 型」の人材になり、1 つの分野にとどまらず、プロダクト、デザイン、財務の分野にまたがって活躍できるようになるといいます。
今後の予定

Hron 氏とチームは、Claude Fable 5 や今後の Claude モデルで限界を押し広げることに意欲的です。具体的には、より長期にわたるタスクへの対応、コンテキスト管理の向上、そしてエージェントが実行する一連のタスク全体で信頼できるツール呼び出しの実現です。
同氏は、これらのモデルを自身の業務に活用することにも同様に意欲的です。Claude Code のおかげで「再びはるかに技術的な作業に携われる」ようになり、何か月も触れていなかったコードベースでも、1 日ではなく数分で把握できるようになりました。また、Claude Cowork を活用して CFO や戦略責任者の視点に立ち、アイデアを厳しく検証しています。
これらは Claude Fable 5 のようなモデルが目指して開発されている方向性であり、最終的に法廷で通用しなければならない業務において、Hron 氏はそれを次に追求すべきフロンティアだと考えています。結局のところ、プロフェッショナルな AI は、ほぼ正しいだけでは不十分な環境で機能しなければなりません。
Claude Fable 5 の利用を開始する。